Case Report | 実践報告

森の騎士 : 青少年支援活動における教育LARPへのドイツ的なアプローチ

Denise Paschen | デニーズ パッシェン

Münster University | ミュンスター大学

How to Cite:

Paschen, Denise. 2019. "Forest Knights: A German Approach to Educational Larp in Youth Work." Japanese Journal of Analog Role-Playing Game Studies, 0: 15e-21e.

引用方法:

パッシェン デニーズ. 2019. 「森の騎士:青少年支援活動における教育LARPへのドイツ的なアプローチ」『RPG学研究』0号: 15j-21j.

DOI: 10.14989/jarps_0_15j

要約

[0.1] グローバル化された世界においては,関心を共有する行為者同士のやりとりが常態化し、より容易なものとなる。ライブ・アクション・ロールプレイング(LARP)コミュニティも例外ではなく、LARPコミュニティにおいても国際的なネットワークや協力関係を増加が見られる.しかし,これら地域的なLARPの連合体が活動を行う社会的・文化的・構造的な状況は,国によって大きく異なる.そのため、国際的な会談では,往々にして,LARPのスタイルや,各プロジェクトの根底にあるインスピレーションにおける文化的な違いの問題を中心に議論が展開されることがある.

[0.2] 本報告では,ドイツのノンフォーマルな教育組織の中でも選り抜きの組織といえる「森の騎士(Waldritter e. V.)」が実施した子ども・若者の教育におけるラープ(エデュラープ(edularp)の好事例を紹介するとともに,この組織がいかに形成され,2000年代半ば以降,いかにプロジェクトを安全に運営し,その資金を調達してきたかを明らかにする.

[0.3] キーワード:エデュラープ,子ども若者支援,ドイツ,LARP,連合 (Association)

Abstract

[0.4] In a globalised world, the exchange between actors with common interests becomes normalised and easier. The live-action role-play (larp) community is no exception to this and looks at an increasing number of international networks and collaborations. But the social, cultural and structural circumstances in which regional larp associations operate differ between nations. in international conversations often revolve around the question of cultural differences in larp-styles and inspirations for own projects, organisational inquiries on how to start and keep larp events running.

[0.5] This paper aims to show best practice examples of educational larp (edularp) in child and youth work, carried out by the exemplarily selected German non-formal, educational organisation Waldritter e.V., and how this organisation formed, operates and has been financing its projects securely since the mid-2000s.

[0.6] Keywords: association, child and youth work, edularp, Germany

1. はじめに

[1.1] 近年,日独それぞれの地域におけるライブ・アクション・ロールプレイング(LARP)のコミュニティや研究におけるアクター(行為者)間の交流が創始された.1 共通の関心事であるLARPとRPGの小さな会話が,定期的なネットワーク形成へ,協働へ,そして国際的な訪問へと発展してきた.LARPそれ自体に多様な地域的・文化的な側面(facets)が存在することはすでに知られているが,これは各ゲームの基本的なアプローチや,その背後にある構造的な組織についても同様である.

[1.2] LARPは単にデザインされたものであるというわけではない.LARPは,ある特定のLARP文化やLARPコミュニティから生成されるものだ.「LARP」と呼ばれるものに目を向けてみると,その均一性の表面が,我々のプレイするゲームや運営するイベントを創造するための,煮えたぎるような葛藤やイデオロギーを誤って伝えてしまっていることがわかる (Torner 2017)

[1.3] 社会文化的・構造的環境は,他の要因の中でも特に,その地域のLARPの型式(form)や全体像(shape)の一因となるとともに,LARPプロジェクトが実施可能な方法に影響を与える.日本からドイツへ,そしてドイツから日本へと,グローバルな文脈でLARPを見ていくことは,双方から学び,協力し,概念とアプローチに気づき,インスピレーションを得,ローカルな状況に対する解決策を見出すための有用な機会となる.本報告では,ドイツに拠点を置くノンフォーマルな教育組織,(社)森の騎士(Waldritter)の好実践事例を見ていきたい.(社)森の騎士は,子ども・若者向けの教育LARP(edularp;エデュラープ)における重要なキープレイヤーである.本報告で紹介するこれらの事例は,登録された非営利団体やドイツ国内の児童・青少年福祉のための独立機関による支援・資金の構造的枠組みに依存している.そのため、これらの例をそのまま日本のLARPコミュニティに移行することはできない.(社)森の騎士は, 未成年者にLARPを提供するドイツ唯一の団体ではなく,また,国際的な団体でもない.しかし(社)森の騎士は,子ども・若者の公共福祉への貢献のみならず,当団体が有するつながりや,ドイツのLARPコミュニティ内における確立された地位から,注目に値すると考えられる (LotW 2017b)

2. (社)森の騎士について

[2.1] (社)森の騎士は,2007年に, ダーク・シュプリンゲンベルク(Dirk Springenberg)およびその他の主要なアクターによって設立された.2 (社)森の騎士は,その当時行われていた主たる活動から,その名前を付けられた.親や保護者は,地元の森の中でLARPを行っていた,かつて大学のクラスメートだった者たちたちのグループを眺めていて,自分の子どもたちにそのようなゲームを提供してほしいと依頼したのである.この依頼は,初期の教育的なコンセプトへと展開していった.それは,すなわち,毎週行われる子ども集団とのファンタジーLARPアクティビティであり,その焦点は,楽しい時間を過ごすこと,自然や環境について学ぶこと,それらを協働的かつ社会的なかたちで行うというものである.。そこでは,楽しいアウトドア体験をすることに焦点が置かれていた.また,環境を常に清潔かつ無傷のまま保つことを条件に,地方自治体による定期的なゲーム活動に森林の一部を公式に使用する許可が出された.これによって主催者は,何度も繰り返されるファンタジーやおとぎ話の舞台設定のための持続可能な計画を立てることができるようになった.教育的な課題も物語の中に組み込まれていった.子どもたちは,環境に関する謎を解くことで,自然について学習した.謎とは,例えば,特定の葉や木を探したり,宝箱を開けるための解き方を発見したり,森の魔女に答えたりするようなものである.この森の騎士たちは,今日ある「(社)森の騎士」になる準備ができていた.3 2019年まで,(社)森の騎士の連合体はヘルテンの町に拠点を置き,非営利でありながらも大きく成長していった.ヘルテンはドイツの西側,ライン・ルール地方の大都市圏にある,人口が約6万人の小さな町である.都市部は東京の特別区の人口に匹敵するが,その全体人口ははるかに少ない (Stadt Herten 2014)

[2.2] (社)森の騎士(Waldritter e.V.)は,4 全国的に活動を展開している,児童・青少年福祉のための独立系公認機関であり,政治的に無所属の非宗派団体である.この組織は国際的にも活動しており、国家横断的なプロジェクトを企画している. 2017年1月から,タンザニアのインリンガにあるSimama地域組織活動(Simama Community Organisation :SICO)との協同で,事務所が設立された(Waldritter e.V. 2018).同年,異なる国々に存在する,(社)森の騎士の8つの提携組織と,7つの協力提携組織によって,EU助成による「世界中のLARP者(Larpers of the World; LotW)」ネットワークが創始された(LotW 2017a).(社)森の騎士は,LARPを通じた歴史的・政治的な知識の伝達方法を開発することを目的として,「市民のためのヨーロッパ」プログラムが資金を提供している多国籍プロジェクト「歴史の火花(Sparks of Hisotory)の5連携組織のひとつとしても活動している (Europe for Citizens 2018)

[2.3] この認証機関というステータスは,ドイツの社会保障コード§75SGB VIIIに基づくものだが,これは,青少年サービスの分野で活動し,専門資格があり,ドイツ憲法の目的に資する働きをすることを保証する場合に,登録された非営利団体(eV)が取得できるものである (Chancen NRW 2017).このステータスを獲得することは、(社)森の騎士のような団体にとってかなり重要なことだ.なぜならば,それは国や地方自治体による重要な助成金への扉を開くからである.多くの提案公募(Call for proposals)が単一のプロジェクトに対して資金を提供するものであるため,助成金の獲得は頻繁に行わるが,国の助成金の獲得によって,スタッフを雇用したり,会場や用具,複数の活動を伴う長期的なプロジェクトに資金提供を行ったりすることができる.全体でみれば,(社)森の騎士は,そして常時の助成金申請という従事すべき仕事を通じて,国や州,欧州連合(EU)の助成金の収益によって財政的に支援されるとともに,参加者が支払う参加費や慈善寄付によっても支援されている (Waldritter e.V. 2015b)

[2.4] 法規によると,(社)森の騎士は,27歳までの子どもとヤングアダルトのための,課程外でノン・フォーマルかつ自発的に行われる,子どもと若者の教育に焦点を当てている.つまりこれは,年の若い参加者たちが,学校制度による締め付けや抑圧の外側で,すべてのプロジェクトに自発的に参加することを意味する.すべてのプロジェクト課題の中心的な目的は,子どもたちに葛藤をもたらし,さらに,民主主義的なコンピテンシー,連帯,レジリエンス,共感と寛容へと導いていくための解放,自己決定,民主的主体性と定義されている.(社)森の騎士は,「児童の権利に関する条約」(通称:子どもの権利条約)が意味する範囲の中で,パーソナリティや個人の能力のみならず精神的・身体的な才能の発達の視点からも,ターゲット・グループの子どもたちを支援することを目指している (Waldritter e.V. 2015b)

[2.5] (社)森の騎士によって定義される教育とは,科目関連型・プロセス指向型でのパーソナリティの発達であり,若者たちが政治参加と自己学習に従事していけるよう,それにふさわしい人間となるような支援するとともに,そのための動機を与えていく.LARP活動は, パーソナリティにおけるすべての事実的側面に対し全体的にアプローチするものだ.これは,若者を真剣に受け止め,若者たち自身の生活世界の中で彼らに手を差し伸べ,感情的な経験に向けて努力することによって達成されるものだ.ドイツを移民社会として理解する立場に立つならば,核となる原理は,さまざまな生活状況や生活世界に向けて行われる, 多様性に配慮した行為(diversity-sensitive acting)である.この行為は,すべての人々の参加と包摂(inclusion)を確実なものにするために行われるものだ.あらゆる若者は,各自の生活経験や個人史,態度,規範,願い,望み,ニーズ,社会的状況,性的指向性と同様に,民族的,宗教的、国家的あるいは性別的な所属において,尊重される.現代のイベント社会において,これらの曖昧な目標を達成するため,(社)森の騎士は,教育的に疎外された参加者にも広めていくことに焦点を置きながら,宣伝・広報を行うとともに革新的な方法を開発している.これらの革新的な方法は,通常,LARPやLARPの知見に基づくもの,物語的な性質やプレイフルな性質を有するようなもので,教育的な用途に適しているとともに,参加の度合いがかなり高く,インタラクティブである (Waldritter e.V. 2015b)

3. 子どもとヤングアダルトとのLARP

[3.1] 冒険教育(adventure-based education),遊びの教育学(pedagogy of play),および環境教育(environmental education)は, 現代のドイツにおける青少年教育活動における既存の活動の一部である.ルソーやペスタロッチなど,初期の進歩主義教育のアクターに由来するアイデアは,自然環境における探検的かつ経験的な学習のアイデアを前進させてきたが,これらはドイツの公教育・インフォーマル教育に長きにわたる伝統を有している.遊び(play)は, 子ども時代の統合部と見なされており,幼少期から家族や教師,教育者によって奨励される (Retter 1992).そのため,1990年代半ばにドイツでLARPが一般に知られるようになってからわずか10年間で,教育用のLARPが生みだされ, 教育方法としてその人気を高め続けていることは不思議ではない (Schwohl 2003).このようにして生み出され,人気を得つつある教育用LARPのルーツは,「ノルディック・ラープ」の構造にあり,イベントの連続コース内にある教育的なメッセージを含むフェーズを活用する.5 このフェーズは,傷つきやすい参加者がいる場合や,極度に感情的であったり,あるいは,論争の的になっているような舞台設定を用いる場合には,特に重要である.そのため,(社)森の騎士が行うすべてのLARPプロジェクトでは,参加者に対して適切に心構えをさせ,ガイドし,監督するため,教育的なメッセージを含むフェーズのフェーズ構造を遵守している.

[3.2] これらのフェーズ構造には,年齢に適したプロット・デザインが必要となる.ゲームのプレイヤー監督において,大人同士の相互行為や難易度が,通常,幼い参加者を対象としておらず,適切でないのと同じように,子どものためのLARPは,大人向けに開発されたLARPに子どもを連れて行くこととは異なるものである.子どものためのLARPには,対象となる年齢集団に基づく,子ども向けのLARPコンセプトが必要である (Springenberg and Steinbach 2009). 子どもたちは成長するに従いゲームの状況を異なるかたちで経験し,異なるかたちでロールプレイを行うため,計画した年齢層に基づくコンセプトを開発することが重要なのだ.このことは,心理学における発達段階 (developmental-psychologically stages)を見れば明らかだ.たとえば,6歳までの幼児は,虚構と現実とを区別できず,物語と登場人物に完全に同一化できる.ゲーム内のシーンはすべて,彼らに直接的な影響を与えるため,高度な監督と,問題状況の迅速な解決が必要となる.

「エデュラープ」におけるフェーズ構造の例

図1: 「エデュラープ」におけるフェーズ構造の例 (Maragliano 2019)

[3.3] 青年期後期は,より進展した価値形成,役割葛藤,社会的指向性の期間である.未成年の参加者に向けたLARPに関して他に配慮すべきこととしては,法的枠組みがある.未成年者とともに活動を行ったり,未成年者を監督したりする教育者には,法的責任がある.ドイツの法律では,年齢層の異なる人々に対して行われるさまざまな教育活動に自由度を持たせるため,この責任の範囲は厳密に定義されていない (Springenberg and Steinbach 2009).加えて, データセキュリティやプライバシーに関する国や欧州の法律がより複雑になり,インフォーマルなグループ活動においては非実用的であまりにも官僚主義的な部分があるため,教育者の間では,データセキュリティやプライバシーが相当大きな懸念となっている.

4. 成功した実践事例

[4.1] (社)森の騎士が提供するアクティビティは,従来のLARPを超えて成長してきたといえるが,RPG関連の大部分はまだ成長途上である.中核となる方法は,代替現実ゲーム(ARG),教育用ラープ,ドラマ・ゲーム,インタラクティブ・アドベンチャーである.グループおよび学級は,冒険ゲームや都市ゲームなどの単日アクティビティに参加登録したり,宇宙会議や,学校休日プログラム,ゲームデザイン・ワークショップ6などの複数日にわたるイベントに参加したりできる.政治教育,その中でも特に,右翼的な過激主義の予防や,難民と移民,テロリズムと監視,1945~90年の西・東ドイツ関係史 (German-german history),そして国際的な若者同士の交流に関する政治教育に重点が置かれている.7 教育学的なアプローチも,冒険を通じて自然や環境,人格の発達に関する知識を構築したいという願いを超えて,発展してきた.通常学校終了期にある若者向けのキャリア入門指導,薬物乱用防止,STEMやメディア・リテラシー,インクルージョンや歴史もまた,トピックとなってきており,これらのトピックもゲーム活動の中に取り込まれている (Waldritter e.V. 2015c).近年になって追加されたのは,脱出ゲームおよび教育的な脱出ゲームである.このような状況にあることから,たった数件の好実践例を選出することは困難になってきており,以下の事例はその可能性のほんの一部を示したに過ぎない.

[4.2] 「クラシック」:森の騎士のインタラクティブな冒険ゲーム – (社)森の騎士の中核には,その名の由来となったLARPがある.森に若い騎士がいる教育的なファンタジーLARPである.毎週行われるこのアクティビティは,全国13か所に存在する各地域のグループによって,定期的に開催されている (Waldritter e.V. 2015d).それらのチームは,教育学の教育を受けた職員によって指揮され,教育者,劇場で創造的活動に関わる人々,自然や環境の専門家,歴史的に興味のある個人で構成されている.グループのいくつかは,独自開催イベントや継続活動,週単位の活動のために,学校や青少年センターと協同している.キャンペーンプレイは,ファンタジックなおとぎ話の森で行われる.子どもたちはクイズを解くために騎士の格好でその場に到着し,子供向けの教育的なLARPコンセプトのもと,スカベンジャー・ハント(宝さがし)に参加したり,8 ロールプレイを行ったりする.冒険ゲームは,野外活動指向の学校や,役割を演技するという付加的な側面をもつ幼稚園で使用されている環境教育学のコンセプトと比較しうる.これらは,ゲーム化されたプレイフルなやり方で,子どもたち自身が異なる役割を試して,集団の力学について振り返り,自然について学ぶ機会を与えるものである.これは、広大な野外での生活をほとんど経験しない都市部の子どもや若者にとって,特に有益である.古典的なおとぎ話の舞台設定ではなく,他の歴史的な情報に基づく設定も可能である (Waldritter e.V. 2015a)

[4.3] 学校に向けて – 「宇宙会議 (space conference)」標準的なビジネス・シミュレーションのトピックを対象とした目的を有するビジネス・トレーニングの中で行われているシミュレーション・ゲームに近い.そこで扱われるトピックは,交渉,妥協,契約などがあるが,さらには戦争や禁輸につながる葛藤シナリオなどもある.このような場合,若い生徒たちは銀河間で行われたカンファレンスでのエイリアン国の会議をロールプレイする.宇宙会議は,寛容になることを促し,右翼的な過激主義を防止するための1日ワークショップとしてデザインされているため,学級でプレイすることができる.エイリアンはそれぞれ,独自の秘密の挨拶,宗教,政治的・文化的慣習と目標を持っている.各グループ内で,生徒たちはそれぞれ,領事,宗教的指導者,政治的指導者,あるいは兵士の役割を担当する.『スター・トレック』のようなテレビシリーズのエイリアンと同様,コミュニケーションにおいては,複数の問題がある.言語の壁や異なる文化,習慣によって,経済貿易と平和のための交渉が困難になる.これらの対立は,会議が行われるゲーム・フェーズで明らかになる.このゲームの課題は,生徒たちが会議を平和に保ち,妥協点を見つけることである.しかし,対立をエスカレートさせたり,失敗したりすることも可能であり,9 玩具の武器を使用しながら,前もってきめられた安全規則の範囲内で暴力的なかたちで対立をエスカレートさせることもできる (LokalPlus 2015)

[4.4] オープン・アクセス:「一夜のドラマ(One Night Drama)」 – 毎年,連休となる週末に,何人かの主催者によってドラマ・ゲーム10のイベントが開催され、その間に,複数の小規模なLARPが提供されている.「バー・キャンプ(Bar Camp)」のスロット (枠)11 の形式で,参加者自身が複数のミニLARPを提供,指揮する.これらのイベントには,予約が必要であり,料金には宿泊費が含まれる (ifol 2019).(社)森の騎士のコンセプトとしては,「一夜のドラマ(One Night Drama)」は、1か月に1回夕方に開催されるアクティビティであり,16歳以上の参加者向けのアクティビティである.少額の費用を,飲み物とテイクアウト式の夕食を賄うためのものである.通常,参加登録の有無にかかわらず,参加を希望するすべての人が参加でき,一夜限りのドラマ・ゲームに焦点を当てている.参加者は、数か月先までのトピックやゲームを提案できる.このアクティビティは,LARPの世界への敷居の低い入り口となることを意図しているのみならず,経験豊富なLARP愛好家(Larper)が,すでに知られたゲームの先を見越して,毎月,異なるゲームを試す場となることを目的としている (Drama Games 2019b)

[4.5] 政治ゲーム:「ディ・マウアー(壁)」 – 1961年, ヴァルター・ウルブリヒト(Walter Ernst Paul Ulbricht)が,有名な言葉「誰も壁を作ろうなんて思っていない」を語ってからわずか2ヶ月後に,ベルリンの壁の建設が始まった.家族と国家の分断は28年しか続かなかったものの,東ドイツから逃げようとして200人以上が亡くなり,今日に至るまで,依然としてドイツ社会の亀裂は顕著である.教育・政治的なLARP「ディ・マウアー(壁)」は,ゲーム内で壁を再建設し,ヤングアダルトに,その時代における感情や状況の危機を体験させるためにデザインされた.参加者は,3日間のコースの他,事前ワークショップの間,歴史的文脈について学び,ゲームにむけた心構えを行う.地雷やフェンスを伴った,壁や監視境界などを含んだ舞台設定,そして兵士のタイム・シフト計画が,ともに作り上げられる.プレイヤーは,民間人や逃亡者を選ぶこともできるし,逃亡を阻止しようとする兵士やスパイになることもできる.各キャラクターは,葛藤・対立や相互依存関係を引き起こすために,他のプレイヤーとのの絡み合いを含むかたちで,背景となるストーリー,動機,およびモラルを詳しく作り上げていく.ゲームそのものは,1985年11月27日,国境近くのパブの中という設定で,土曜の夜,夜明けから夕暮れまでがプレイされる.すべてを網羅するプロットはないが,実際の状況に基づき,多くの個人が自分自身のストーリーを持ち,解決策を見出そうと壁を越えることを試みるか,あるいは,人々が国境を横断するのを防ぐ.高い警戒心,一時的な逮捕,ゲーム内での死亡の可能性を含んだ強烈な経験は,最終日の徹底したグループによる振り返りとディブリーフィングによって締めくくられる (Moritzen and Steinbach 2012).

[4.6] 大きくなる:「プロジェクト・エクソダス(Projekt Exodus)」 – 2015年,(社)BASAは,12 市民教育のための国家機関の支援を受け,(社)森の騎士のメンバーと協同して,若者向けの革新的な教育プロジェクトを開始した.この教育プロジェクトは,科学的なものを含み,評価されたものである.「プロジェクト・エクソダス(Project Exodus)は,スウェーデンのプロジェクト「セレストラ・モニター(Monitor Celestra)」にインスピレーションを得て,サイエンス・フィクション(SF)のテレビシリーズである『GALACTICA/ギャラクティカ(Battlestar Galactica)』の舞台設定の要素を利用して行われたものである.80名のプレイヤーは,ドイツ海軍のかつての駆逐艦であり,現在は博物館として使用されているメルダース号の中で,2.5日間、社会的な宇宙船の舞台設定を体験した.プレイ時間は,時間の流れを疑似体験するとともに,さまざまな系列のプロットを構築するため,8時間の長期エピソードに分割された.このゲームは教育用ラープとして意図的に開発されたこと,検察官から逃亡する間,宇宙に閉じ込められ孤立した人類集団の個人経験や社会的葛藤に焦点を当てたこととから,注目に値する事例であるといえる.結果的に,実際のゲームプレイは1.5日間の事前ワークショップと,ディブリーフィングや経験の振り返りを行う反映する最終日によってその前後を囲われていた.ゲームプレイの強烈さのため,未成年のプレイヤーはこれに参加することができなかった (Jaensch 2015; Basa e.V. 2015)

[4.7] ライブ代替現実ゲーム – 「プロジェクト・プロメーテウス(Project Prometheus)」は,もともと,ゲームそのものを示す名称であったが,さまざまな街や環境で開催されるARGの総称となった.基本的なコンセプトに変更はない.ロールプレイ要素を伴うスカベンジャー・ハント(宝さがし)であり,組み合わせ,ロケーションに密接にかかわる設定で,虚構と現実とを融合させた都市型ゲームというコンセプトである.ゲームは街全体を使って行われ,通常,週末の連休に行われる.プレイヤーは、手がかりを見つけ,謎を解き,容疑者を調査することによって,架空のプロットを解決しようと試みる.教育的なコンセプトにおける重要な側面は,メディア的な生活世界 (medial life world)に対して,系統的に,焦点を当てていることである.メディア的な生活世界とは,すなわち,メディアのインタラクティブな使用,批判的なメディア・コンピテンシー(資質・能力)の獲得を意味する.デジタル情報,新聞記事,ハードウェア機器でさえも操作されうるものであり,注意して使用する必要がある.政治的情報に基づく論議の的となるようなプロットでは,批判的思考 (critical thinking)と理路に適った位置づけ (rational positioning)が求められる.たとえば「プロジェクト・プロメテウス」では,容疑者を発見し,あるいは無罪にし,爆弾の爆発を止める必要があるような,テロリズムの階層型プロットを使用した (Projekt Prometheus 2019).「運動 (The Movement)」において,プレイヤーは,極端な右翼グループと過激な左翼グループの対立に巻き込まれた.プレイヤーに異なる視点,質問の価値,批判的思考を体験させるために,倫理的ジレンマや,異なる政治的立場が用いられた (Grüter, Lange, and Skamnioti 2014). 「緑のインパクト(Green Impact)」において、プレイヤーは,大規模な環境の激変を明らかにすることを試みながら,調査レポーターの役割に,自分自身を見出す (Projekt Prometheus 2019)

5. 結論と考察

[5.1] この論文の目的は,ある選ばれたLARP連合体の背景と実践に関する見識を提示するというものであり,限定的なものだ.近年および過去の数年間を垣間見ることができるのみである.LARPシーンにおける多くのボランティア組織および商業的組織から見て,(社)森の騎士は両者の領域で活動を行っているひとつの事例であり,どちらの領域においても,十全には機能しない.この連合体は,自分たちのための場を発見し,スタッフやボランティアの話によれば,公的な児童・青少年サービスのための達成感ある目的を,創造的かつインタラクティブな方法を発展させそれとともに活動する中で,見出すことができたのである.(社)森の騎士は,公的な助成金,高いモチベーションを持ったチーム,そして,うまくデザインされ,考え抜かれた教育コンセプトを効果的に使用することにより,20年以上にわたり豊富な種類のLARPとRPGに基づくゲームを運営できるようになり,時の経過につれて発展し成長し続けてきた.このようなアプローチが,日本や他国における公的・社会的な助成金の構造に適用しうるのかどうかについては,さらなる評価が必要となるだろう.

  1. 例えば,「TRPGフェス2018」における,ドイツ人と日本人によるLARP実践や口頭発表パネルが挙げられる (Kamm 2018)↩︎

  2. 初期メンバーとして知られているのは、シルビア・フェルシン(Silvia Fölsing), デニス・ランゲ(Dennis Lange), サビーネ・シェラー(Sabine Scheler), ダーク・シュプリンゲンベルク(Dirk Springenberg), ダニエル&フランク・シュタインバッハ(Daniel and Frank Steinbach)とその両親である.↩︎

  3. プライベートの会話中に,森の騎士メンバーが語ったエピソード.↩︎

  4. eVは、eingetragener Verein (登録協会)の略語であり,登録された任意団体の法的地位を示す.これにより,連合体は法人として活動し,非営利組織のステータスを申請することができる.なお,本邦訳では,ev(登録協会)を日本における社団法人と類似したものと考え,(社)の表記を用いているが,これらは同じものではない.↩︎

  5. 本誌に掲載された,Björn-Ole Kammによる論文を参照すること.↩︎

  6. 例えば,(社)森の騎士は,ドイツのLARP作家ネットワークを始動し,定期的なワークショップや,執筆のための隠れ家(writing retreat)を提供している (Larpwriter 2019)↩︎

  7. これは,1990年のドイツの再統合のみならず,その原因、分断された期間,およびその後の問題の克服をも反映している.↩︎

  8. 「スカベンジャー・ハント」は,「宝さがし (treasure hunt)」とも呼ばれている.プレイヤーが,ヒントや謎に従いながら,ある目的や場所に向かって進む屋外型のゲームである.これらのヒントは,多くの場合,隠された小さな紙のメモに書かれているが,印づけのできるあらゆる創造的な方法を活用することができる.近年では,スマートフォンでQRコードを追跡することが一般的に行われるようになった (Canvas Network 2013)↩︎

  9. これは「ゲームのなすがままに(let your game go)」の原則に基づいている.ゲームデザイナーはプレイヤーを制御できないため,プロットが意図されたとおりに展開するとは限らない.↩︎

  10. ドラマ・ゲームは,感情的な体験に重点を置いた,室内LARPやミニラープを示す別用語である (Drama Games 2019a).これらは短く,演劇的なLARPで,材料はほとんど必要ない.「ポストカードLARP」は10分程度の短いものであるが,教育目的の特別なドラマ・ゲームの実施時間は数時間になる.↩︎

  11. 「バー・キャンプ(Barcamp)とは,参加者がコンテンツを提供するオープンな参加型会議である.通常,最初のセッションで,空欄のタイムスロットが書かれた掲示板が,他の人々をディスカッション,ワークショップ,あるいはプレゼンテーションに招待したい参加者によって埋められていく (Eisfeld-Reschke, Preyer, and Seitz 2013)↩︎

  12. Bildungsstätte Alte Schule Anspachの略称.BASA e.Vは、アンスパック・ヘッセ(Anspach Hesse)の教育機関であり、(社)森の騎士のプロジェクトにおける,サポーターおよび連携パートナーの常連である.↩︎

参考文献

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