キャンペーン型ボードゲームは,卓上ゲーム領域において独自かつ拡大しつつあるニッチとして登場している。この種のゲームは,『Kingdom Death: Monster』や『Aeon Trespass: Odyssey』のように,長期的な物語展開,キャラクター成長,協力型プレイを組み込み,『Dungeons & Dragons』に代表される伝統的なテーブルトークRPG(TRPG)の重要な要素を反映している。構造的な類似性にもかかわらず,キャンペーン型ボードゲームは,人的ゲームマスターを欠くこと,あらかじめ定められた分岐型物語への依存,そしてより厳密なルール運用といった点でTRPGと異なる。本稿は,キャンペーン型ボードゲームとTRPGの交差領域を検討し,生成的物語やプレイヤーの主体性,ゲームメカニクスといった共通点と,ロールプレイ/即興性,メカニクスの柔軟性,リプレイ性の差異とを明らかにするものである。本稿の主要な論点は,キャンペーン型ボードゲームが,特に初心者にとってTRPGへの取り組みやすい代替手段を提供するという点にある。多くのTRPGが熟練したゲームマスターや高度な即興能力を必要とするのに対し,キャンペーン型ボードゲームは構造化された体験を提供し,プレイヤーが豊かな物語や複雑な意思決定によりアクセスしやすい形式で関与できる。この構造化された設計は,ジャンルへの理解を深める「箱から出してすぐに遊べる」経験を提供することで,TRPGへの移行を志向する者にとって橋渡しとなりうる。これらのゲームとTRPGの重なりを検討することにより,本稿は,キャンペーン型ボードゲームがRPG研究において学術的意義を有するとともに,TRPG愛好者にとってのツール,あるいは代替形態として位置づけられるべきであると論じる。